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「日本の良さ」を同時に発信する東京モーターショーに

写真小宮:今年は東京モーターショーがありますね。そのワクワク感を、どのように演出していこうとお思いになっていらっしゃいますか。

豊田:一昨年の前回モーターショーから、会場を幕張メッセから東京ビッグサイトに移しました。お仕事帰りなどに多少行きやすくなったこともあってたいへん盛り上がりました。

昨年は休催年だったのですが「お台場学園祭」というイベントを開催しました。私どもメーカーのほうが、クルマ離れと言われている若者にもっと近づこうという企画で、これも良いコミュニケーションになったと思います。これをベースに、東京モーターショーについてはこれからいろいろ考えたいと思います。

市場規模などもあって、近年東京モーターショーの位置づけが、アジアの中で以前ほどの輝きがなくなってきたと思います。けれども、日本には環境対応車においても、安全対策にしても、世界に発信できるものがたくさんあるのです。それを発信することこそが、ひいては日本人の元気をもう一度呼び覚ますトリガーになるのだと思っています。

小宮:日本の自動車技術は世界に誇れるものだと思いますが、モーターショーはその技術の発表の場にもなっているのではないでしょうか。

豊田:今年は特に、ITS(Intelligent Transport Systems)の世界会議も、東京で開催されることになっています。ITS世界会議と東京モーターショーが相まって、日本の自動車メーカー各社の底力を見せられるショーになればいいと思っておりますし、同時に日本ブランドと言うか、東京ブランドというものもぜひ発信すべきと思っています。例えば、震災の中にあってもしっかり秩序をもって行動するといった、日本人の本当に誇るべきところも世界に発信できると思います。自動車の技術力もさることながら、それよりも日本という国の良さを知ってもらう、東京という素晴らしい街の価値を創造する機会に、クルマというものが使われれば、たいへんありがたいと思います。

小宮:「失われた20年」と言われて、ともすれば自虐的な、自信をなくした日本人の姿があるようにも見えます。先ほどもおっしゃったように「そうじゃないんだ、自信を持っていいじゃないか」という発信でもあるのですね。

豊田:日本の各メーカーは日本を基盤にして世界に打って出ています。そういう点も、自動車が他の産業にはないイノベーション力を持っているし、期待していただきたい点だと思っています。

“better”,“better”,“better”が大切

小宮:お話をうかがっていますと、今年はプラスに向けてのポジティブな材料がいくつもあって、うまくいくかなという感じでしょうか。

豊田:私の場合、いいときをあまり経験していませんから、そのころに比べるとずっといいです。

ですが、良くないときでも支えてくださっているのが、応援してくださるお客様ですし、一緒に仕事をしている仕入先、販売店、従業員だと思うのです。心で泣いても笑顔でやってまいりましたが、心で泣いている部分がだんだん少なくなって、本当の笑顔がとにかく増える、笑顔が本当の笑顔になる日にちが多くなる、そんな2013年を望んでいます。

小宮:そうですね。私は“better”というのがいちばんいいと思っています。

豊田:“better”,“better”,“better”でいったほうがいいのです。私もそれがいちばんいいと思います。

小宮:同じようなことが日本の製造現場でも言えるのではないでしょうか。コツコツとそれぞれが修正を積み重ねて、緻密にやっていく「カイゼン」という方式がありますが、これからもそうしたやり方がやはり威力を発揮するのでしょうか。

豊田:緻密もそうですが、今日より明日は良くなると思う、今よりもっといい方法がある、というのが「カイゼン」だと思います。決してゴールはなくとも、そのことを続けるがゆえに、絶えず良くなっていく。そしてちょっと振り向いたときに「あ、持続的に成長してきたな」「自分も会社もここまで成長したな」と感じられることが、いちばん良いのではないかと思っています。

もうひとつ私が思っているのは、将来の笑顔のために今努力する、一生懸命働く、ということです。今現役の私たちが恩恵をこうむっているのは、今までの諸先輩、多くの方々がやってきてくださったお陰です。ですから私たちが現役である以上、将来の方々にも、そういうふうに思われたいですし、今仕事をやっておかないといけないと思うのです。今苦労をしても将来の笑顔にロマンを感じませんかということです。それが“better”,“better”,“better”とやっていくことだと思います。それは生身の人間ですから、短期的にある程度の評価がほしいということもあると思います。ですが、いま日本人にとって大事なこと、企業に求められているのは、中長期的に将来の笑顔のために苦労しておいたほうがいい、刈り取りは将来でいいでしょう、という考え方なのだと思っています。

小宮:先日ノーベル賞を受賞された山中教授がおっしゃっていたことと同じですね。山中さんは「研究者というものは何年もずっと同じ研究を続けてきて、結果が出ない人もいるし、出る人もいる。たまたま私は出たけれどもそうなるとは思っていなかった。だれかが成果を出せばいい。研究は連綿とつながっていくものだ。私は百年後に評価される仕事がしたい。ゴールはなくてこれからがスタートだ」と。受賞直後おっしゃっていたことを思い出しました。やはり科学の世界も、自動車の世界も、もしかしたら同じではないでしょうか。

豊田:まさしくそうだと思います。人材育成とかいろいろなことを百年の計で考えるべきだと思います。

小宮:一方では短期で、今日明日のことも考えなければいけないのですが、リーマンショック、東日本大震災を経て、少し変わってきた社会や世界の価値観と、まさに寄り添う形で、自動車業界も進んでいくということ、これが「ものづくりの心得」だと考えてよろしいのでしょうか。

豊田:先ほども触れましたが、日本における「ものづくり」は、六重苦と言われる厳しい環境の中にあります。現在の円高により海外への生産拠点の移管が進むなど、サプライチェーン全体が根こそぎ空洞化し、産業・雇用が崩壊する危機に瀕しています。しかし、私は、このように厳しいときだからこそ、国内の自動車産業が、日本を元気にする、日本を笑顔にするんだ、という思いをもって、取り組まなければならないと思っています。

小宮:それは心強いことです。私たちみんなが、なんの根拠もなく、なんとなく不安になっていて、なんだか明日がたいへんそうな、将来の希望がなさそうな、ということに怯えているように思います。でもそうではないということをひとりでも多くのリーダーの方たちが言っていくということが、日本にはまだのりしろがある、開拓していくということにつながる、ということになるのでしょうね。

豊田:そう思ってやっていきたいですね。

「クルマで楽しんでいる姿」を見せる

写真豊田:小宮さんが運転されている姿はかっこいいと思います。こういう方が運転されると女性マーケットは広がりますね。女性マーケットが広がると、男性マーケットも拡大しますので、それによって日本の市場を活性化していただきたいと思います。

小宮:確かに、女性がマーケットをけん引するところもありますので、私のような者でも、市場拡大に果たす役割があるのですね。

豊田:それはもう、すごくあると思います。いやもうインフルエンサー(影響力のある人)の最たるものだと思いますよ。

小宮:ありがとうございます。会長はクルマ大好きでいらっしゃいますよね。

豊田:ええ、もう大好きです。勤めている会社が自動車会社ですから年間200台くらいでしょうか、いろいろなクルマに乗っています。

よく、レストランのおいしい味、まずい味がわかるためには、なんでもいいから、いろいろなレストランへ行って食べなさいと言われますでしょう。それと同じで、クルマにも味がありまして、その味がわかるためには、いろいろなクルマに乗って、いろいろな道を走る、そこで道がクルマを作っていることに気づいたほうがいいということを数十年前に言われて、それ以降、実際にハンドルを握るようにしています。

ちゃんとした運転を知らなければクルマの評価などできないというのが出発点でしたが、今は、私のようないわゆるシニアがクルマで楽しんでいる姿を示すことこそ、若者に対して良いアピールができるのではないかと思っています。「あのおじさん、クルマと一緒のときは、なんであんなにニコニコしてるんだろうな」ということでいいと思うのです。

また、クルマというものは子どもたちにも笑顔と夢を与えるものであってほしいと思いますし、そういうものにし続ける責務が私たちにはあると思います。

小宮:ありがとうございました。それでは、今年がぜひ「平穏無事」な一年になりますように。

豊田:はい、ありがとうございます。平穏で、より多くの方々に感謝ができる年にしたいと思います。

写真

(とよだ あきお/こみや えつこ)


小宮悦子さんのプロフィール
1981年テレビ朝日に入社。
1985年「ニュースステーション」サブキャスターを務める。
1998年「スーパーJチャンネル」のメインキャスターとなる。夕方2時間のニュース番組を最初に手がけた女性キャスターとして高視聴率を達成。
2010年また新たな挑戦をするため日曜日午前10時からの生放送「サンデーフロントライン」のメインキャスターとなる。〜2011年9月まで。
常に新しい形の報道番組に女性キャスターとして挑戦し続けている。

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