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シリーズ 米国拠点のキーパーソンに聞く
グローバル時代を生きる多様性マネジメント

新興国台頭による市場拡大、国境を越えたパートナーシップ、働き方の多様化、マイノリティの登用など、多くの企業はダイバーシティ(多様性)に富んだ企業環境におかれている。本シリーズでは、各社米国拠点のキーパーソンへのインタビューを通じ、多様性に対するマネジメントの考え方や取り組みについて、現地での貴重な体験談等を交えて紹介する。


【第1回】 Nissan North America社

クロスファンクショナルチームこそ日産の強み

本シリーズの第1回目となる今回は、Nissan Americas という多様性の高い複数の市場を統括し、2011年にはAutomotive News誌より、“2011 Automotive News All-Stars”にも選ばれている、ビル・クルーガー氏にお話を伺った。

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ビル・クルーガー氏
William J. Krueger
Vice Chairman, Nissan Americas

クルーガー氏は、ウィスコンシン州マーケット大学にて電子工学とコンピュータサイエンスを学んだ後、イリノイ州ノースウェスタン大学の大学院にてMBA、及び技術管理修士号を取得。

ハーレー・ダビッドソン、GMのジェーンズビル工場(ウィスコンシン州)での経営職を歴任後、米国トヨタのジョージタウン工場(ケンタッキー州)でジェネラルマネージャーを経て、2005年に米国日産に入社。現在、アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル、そしてラテンアメリカとカリブ諸国を統括する会社の副会長を務める。

その他、アトランタ連邦準備銀行ナッシュビル支部の理事長や、米国赤十字ナッシュビル支部、セカンド・ハーベスト・フードバンク・オブ・ミドルテネシーの役員理事も兼任している。

◆日産はリバイバルプランが非常に有名です。その中では特に、クロスファンクショナルチームにフォーカスしたと聞いています。クロスファンクショナルチームは日産にとってどれほど重要な位置づけなのですか?

クルーガー:生命線と言えるほど必要不可欠なものです。アメリカだけでなく、グローバル市場における日産の競合優位性は、部門間の障壁を打ち破り、クロスファンクショナルに協業していくことで、透明性が向上されるところにあります。

米国本社は2006年にここフランクリンに移動したのですが、西海岸からセールス&マーケティング部門すべてを米国本社に集約したことで、さらにクロスファンクショナルチームで協業する機会が増えました。そのおかげで、部門間における透明性が向上し、情報共有、事業のスピードが確実に上がりました。

◆人種や文化はもちろん、部署やタイトル、バックグラウンドなど、多様性に富んだ人々で構成されるクロスファンクショナルチームで協業していると、さまざまな意見の対立も多々起こりうると思います。そのような場面に直面した際に、チームをコンセンサスに導くための成功の秘訣はなんでしょうか。

クルーガー:クロスファンクショナルチームによる協業は、「障壁」ではなく、「機会」である、と捉えています。ですから私自身は、対立という概念はあまり持たないようにしています。多様な意見をぶつけ合うことは機会なのです。そのため私がチームメンバーに常々伝えていることは、より透明であることを心がけながらクロスファンクショナルチームで協業することで、より強固な解決策やコンセンサスを導き出すことができる、ということです。それがチーム全体の共通のゴール、つまり市場での競争に勝つこと、の達成に繋がるのです。

私が日産に入った当初は、まだ各部門は地域的にもバラバラでしたので、対立は日常的に見られていました。しかし部門を越えて人々を集め、対立の要因を分解し、対立に使われていたエネルギーを外に向けて、つまり市場に向けて使っていくことで、より高い結果を達成することができるのです。

◆多様性に富んだクロスファンクショナルチームが対立を超えて機能し、さらにもう一歩先のハイパフォーマンスチームへと育っていくためには何が必要なのでしょうか。

クルーガー:チームメンバー全員が問題解決のマインドを持つことです。そしてプロジェクトを評価する際に、「Nissan Way」が問題解決手法の中に根づいているかを監督し、私が自ら、すべての地域及びチームのプレゼンテーションをレビューしています。そしてその機会を活用して、チームメンバーたちがさらに深く掘り下げて問題解決ができるようコーチングし、教育し、そして挑戦を投げかけています。国内のみならず、グローバル全体で水平的にベストプラクティスを共有するためにも、このクロスファンクショナルチームは役立っています。

◆「Nissan Way」とはどのようなものですか?

クルーガー:「Nissan Way」には、日産のあるべき姿を示す5つの心構えと5つの行動があります。それは精神性に繋がるもので、日産という企業としてのビジョン・ミッションを達成するための道しるべ、すなわち、社員一人ひとりがポテンシャルを開花させることができるよう、日々の業務で実践すべき行動指針なのです。この精神性は、新入社員が入社すると必ず研修で伝えていることですし、また、年間のパフォーマンス評価の際にも重要視している点です。パフォーマンス評価では10の評価基準に基づいて、この日産があるべき姿、「Nissan Way」をいかに体現できているかを判断し、フィードバックしています。その評価基準の中には、「クロスカルチャー」、「クロスファンクショナル」の要素が含まれています。ですからある社員を評価する際、第一に、その人物が「クロスカルチャー」、そして「クロスファンクショナル」を体現しているか、という点を重要視します。あるいは、自分自身の機能や国・文化に対して内向きにフォーカスしすぎていないかどうか、または、会社内のある一部分にだけ目を向けがちな傾向にないかどうか、チェックもします。日産社員全員に対して、もっと包括的な視野を持ってもらいたいのです。

 

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テネシー州フランクリンにあるNissan Americas
◆日産は事業展開地域がグローバルであることはもちろんのこと、ルノーとの提携やクロスファンクショナルチームなど、さまざまな文化的背景を超えてプロジェクトを進めていく環境にあります。そのような多様性を生かして生産性を上げていけるチームを率いる「グローバルリーダー」とはどのような人物である、と定義されますか?

クルーガー:まず、異文化について聴く耳を持ち、学ぶことができるようなオープンな姿勢を持っている人物だと思います。米州(北米及び中南米地域)内だけでも、北部と南部、といったような多様性が見られます。また、市場での地位にも多様性が見られます。例えばメキシコでは、わが社は市場リーダーシップの地位を確立しています。40ヵ月間にわたり、自動車販売台数ナンバーワンを達成してきました。日本車ブランドだけではありません、全自動車ブランドの販売においてのナンバーワンです。ブラジル市場ではわれわれは参入してまだ日が浅く、比較的新しい、新興自動車ブランドという立ち位置です。アメリカでは、長年事業展開してきており、生産量も多く、安定的ですが、成長計画もまだまだ打ち出していく余地はあります。ですから、「グローバルリーダー」と言った際、メキシコだけを考えたり、ブラジルだけ、カナダだけを考えるのではなく、異なる性質の市場を包括的に視野に入れたうえで、ベストプラクティスを他の地域とも水平に共有していくことが大切です。

グローバルに見た際、われわれは大きく分けて3つの市場地域を持っています。日本・中国という主要市場を含むアジア地域、アフリカ・中東・インド・ヨーロッパ地域、そして米州です。ですから、米州という一地域内でも南北のコラボレーションを拡大すると同時に、他のグローバル地域ともコネクトしながら、どんな市場機会があり、どのようにそれを獲得できるのか、知識共有するのです。日産ではすべての機能において、なんらかのグローバル性を持ち合わせています。われわれの中長期計画でも、グローバル性がいくつかの柱の中枢に反映されています。

◆Nissan Power 88(日産の新中期経営計画)ですね。

クルーガー:そうです。例えば、ものづくりやセールス&マーケティング、セールスパワー、ブランドパワーなどの柱がありますが、それぞれの目的を達成するためには、自身の地域内だけを見ていてはいけません。地域を越えて、グローバルに課題やベストプラクティスを共有することが必須です。そして機能ごとにも、グローバルかつ密接にコミュニケーションをし、コラボレーションしていかなければいけないのです。

◆つまり全社的なNissan Power88達成においても、国籍、人種、地域、文化、機能などを超えた多様性をプラスの力に変える、クロスファンクショナル性が功を奏するのですね。

クルーガー:その通りです。

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