COP27関連イベントレポート
COP27における「多様な選択肢」の訴求について
1.開催概要:
2022年11月18日、エジプトのシャルム・エル・シェイクにて開催されたCOP27会場に設置されたジャパンパビリオンにて、「カーボンニュートラルに向けた道路交通セクターの排出削減パスについて~IPCC第6次評価報告書における考え方~」と題した一般社団法人日本自動車工業会主催のサイドイベントを開催致しました。
世界の科学的知見の権威であるIPCCの最新報告書の主要執筆者の方々加え、欧米の主要自動車工業会など世界の自動車業界の意見を発信する国際自動車工業連合会事務局の方を登壇者としてお迎えし、各々からプレゼンテーションを頂いた他、カーボンニュートラルに向けた道路交通セクターの排出削減パスについて、パネルディスカッションを行いました。
【登壇者】
- IPCC第6次評価報告書WG3, 第10章Transport章の統括執筆責任者 パウリナ・ハラミーヨ氏 カーネギーメロン大学教授
- IPCC第6次評価報告書WG3, 第17章の主執筆者 第1章序章とフレーミング主執筆者 有馬 純氏 東京大学公共政策大学院 特任教授 ※モデレーター
- IPCC第6次評価報告書WG3, 第17章SDGsの主執筆者 秋元 圭吾氏 公益財団法人地球環境産業技術研究機構 グループリーダー・主席研究員
- イブ ヴァン・デル・ストラーテン氏 国際自動車工業連合会(OICA)事務局長
- 饗場 崇夫氏 一般社団法人日本自動車工業会 国際温暖化政策分科会長
2.各登壇者からのプレゼンテーションの内容
- エネルギー効率の高い輸送手段への移行(公共交通インフラへのシフト等)と低GHG排出技術(ライフサイクルベースで最大の削減効果の高い低排出電力を使うEV)により、先進国では排出量の削減が出来るが、途上国では排出増加抑制に留まり、地域によって異なる。
- EVは高い技術予見性があり、コストも低下しつつあり、懸念事項への対処が可能となってきている。大型車の電化も含め、投資が必要。バッテリー資源については、材料の多様化、資源セキュリティ、リサイクルへの投資など技術開発の余地はまだある。
- 持続可能な低排出燃料、バイオ燃料、水素なども排出削減の支援となる。
- 運輸部門については、2050年に1.5℃レベルの排出削減が必要であるが、CN達成可能性は低い。残余CO2排出除去が必要となる。
- CNの実現には、電化が重要な施策となり、ICEからBEVへのシフトも重要である。ただし、BEVはICEVよりも、一般的に重量があるため、路面やタイヤに大きなストレスを与える可能性がある。
- 一方、DACCSやBECCSなどのCDRは、運輸部門でも化石燃料の残余排出を相殺することに貢献する。また、運輸部門のCN達成のためには、再エネによる合成燃料が一定の役割を果たす。
- エネルギー供給、輸送、CDRにおける総合的なエネルギーシステムの評価は、費用対効果の高い排出削減策を講じる上で重要。BEVのみが道路交通セクターの主要対策になることはなく、異なるタイミング・国・技術の観点で、多様な道路交通対策は、費用対効果の高い削減の可能性がある。
- 道路交通分野における全ての選択肢には、国、導入規模などに応じて、SDGsに対するシナジー効果だけでなく、トレードオフ効果も持ち得る。多様な選択肢による排出削減コストの低減は、例えばSDGsの1(貧困ゼロ)、2(飢餓ゼロ)を増やすことができるため、CNに向けてバランスのとれた排出削減対応策が道路交通分野でも重要になると考えられる。
- 各国の経済、地理、文化的な現実を踏まえ、最も適した方法を特定する協力が必要。
- EVはCNに向けて主要な役割を果たすが、恐らく全て国にとって最も適切な単一技術ではない。
- すべての国が実用的で持続可能な代替・補完策を実施できるようにするための技術中立的アプローチが必要。
- JAMAは2050年CNに向けて最大限の努力を行う。CNの課題正しく理解する必要があり、ライフサイクル観点、エネルギー脱炭素も重要。
- 200近くの国がある中で、ユーザーの選択肢はユニークかつ多様。自動車製品はユーザーが選ぶため、多様な選択肢を維持することが大事。一つだけのソリューションではなく、様々なニーズに合わせるには技術中立が必要。
- CNに向けては各国・地域のエネルギー事情、経済状況などを踏まえ、達成パスウェイが異なる。No one left behindの精神で、全ての人にモビリティを提供することが担保出来なければならない。
- JAMAの基本的な考え方はOICAと類似しおり、OICAのポジションペーパーを支持。
- JAMAのCNシナリオ分析では、BAUを除く3つのシナリオで、CO2排出削減がグローバルで1.5℃の排出削減が可能であり、先進国では2050年CNに近づき、新興国でもIPCCの1.5-2.0℃の排出削減パスに沿った形になることが分かった。
- IEA NZEではBEVのみにしていく道筋が示されているが、JAMAの分析によって他のパスウェイもあるということが分かった。2050年に向けては脱炭化された低炭素電力だけでなく、ICEが一部残るため、CN燃料の供給が重要。
- JAMAとしては、ステークホルダーと一緒に、CNに向けて新たな技術を開発し、排出削減を進め、最適な選択肢を届けて参りたい。
有馬氏
今回のサイドイベントのまとめとして:
コストだけでなく、ユーザーのためにユーティリティ、利便性を考えることも重要。脱炭素化に向けて、それらも比較される必要がある。
EVは約束された選択肢であり、コストも下がり、実用的になってきている。ただし、今回のディスカッションを通じ、BEVはCNに向けた唯一の解ではなく、各国、その状況によって最適解が異なることが分かった。つまり技術中立なアプローチが合理的である。2030年以降の状況を見極めていく必要がある。経済全体で最終的にCNを目指す必要があるものの、運輸部門単独では完全なCNは達成できない可能性があるため、CDRなどのオフセットも必要。
イベント配信録画(日本語通訳音声)
イベント配信録画(英語オリジナル音声)
3.結果概要
プレゼンテーション、パネルディスカッションを通じ、以下のメッセージを聴講者に発信することが出来ました。
・2050年CNに向けて、BEVは有効な選択肢であるものの、唯一の解ではない。
・各国事情が異なる中、技術ニュートラルな多様な選択肢が論理的かつ現実的なアプローチである。
BAU |
Business As Usual |
成り行き |
---|---|---|
BECCS |
Bioenergy with Carbon Capture and Storage |
炭素回収・貯蓄付きバイオマス発電(技術) |
BEV |
Battery Electric Vehicle |
電気自動車 |
CDR |
Carbon Dioxide Removal |
炭素除去(技術) |
CN |
Carbon Neutral |
カーボンニュートラル |
DACCS |
Direct Air Carbon dioxide Capture and Storage |
二酸化炭素直接回収(技術) |
GHG |
Greenhouse Gas |
温室効果ガス |
JAMA |
Japan Automobile Manufacturers Association |
一般社団法人日本自動車工業会 |
ICEV |
Internal Combustion Engine Vehicle |
内燃機関自動車 |
IEA |
International Energy Agency |
国際エネルギー機関 |
IPCC |
Intergovernmental Panel on Climate Change |
気候変動に関する政府間パネル |
NZE |
Net Zero Emissions by 2050 |
IEAのシナリオの一つ |
OICA |
Organisation Internationale des Constructeurs d'Automobiles |
国際自動車工業連合会 |
SDGs |
Sustainable Development Goals |
持続可能な開発目標 |
WG3 |
Working Group 3 |
IPCC内で緩和を取り扱うワーキンググループ |