一般社団法人日本自動車工業会(以下自工会)、一般社団法人日本自動車部品工業会(以下部工会)、一般社団法人日本自動車車体工業会(以下車工会)、一般社団法人日本自動車機械器具工業会(以下自機工)の自動車工業4団体では、「医療現場を始め、新型コロナウイルスの脅威と闘っている方々のお役に少しでも立っていきたい」との想いから、業界一丸となった取組みを進めております。
会員各社における医療現場等への支援内容の具体例につきましては、本ページにて順次ご紹介して参ります。
医療支援の事例紹介
人工呼吸器と生体情報モニタの増産支援【日本光電】X【本田技研工業・トヨタ自動車・デンソー・東海理化】
業界の枠を越えて新型コロナウイルスに対応
医用電子機器メーカの日本光電工業は、本田技研工業(以下、ホンダ)、トヨタ自動車(以下、トヨタ)、デンソー、東海理化の4社の協力のもと、人工呼吸器と生体情報モニタの増産体制を構築しました。国難とも言えるコロナ禍に対し、自動車産業と医療機器業界がタッグを組んで挑んだ、取り組みをご紹介します。同社は、今回の支援で培った技術やノウハウを生かし、今後のグローバル展開を見据え、生産性改善に取り組んでいく予定です。
富岡生産センタ(群馬県富岡市)
増産協力に至る経緯
新型コロナウイルス感染拡大で医療現場への配備が急がれる人工呼吸器の増産に向け、医用電子機器メーカ、日本光電のマザー工場である富岡生産センタ(群馬県富岡市)で増産準備を進めていました。日本政府からの要請もあり、官民一体となった活動の中で、異業種の協力体制が実現することになりました。
この取り組みの中で、ホンダから、人工呼吸器の架台1千台の生産を協力いただき、さらにトヨタ、デンソー、東海理化の3社によって結成されたTPS(Toyota production system:トヨタ生産方式)支援チームから、人工呼吸器と生体情報モニタの増産・生産工程の改善などについて助言、指導を受けることになりました。トヨタが人工呼吸器の増産、東海理化が生体情報モニタの増産、デンソーが基盤実装を担当することになりました。
日本光電工業 執行役員
日本光電富岡 代表取締役社長
真柄 睦 氏
プロジェクト始動時の想い
プロジェクト始動時は、同社工場で、コロナ感染者が発生し工場を2週間閉鎖するという状況にもなっていました。日本光電富岡の代表取締役社長を務める真柄睦さんは「『片方では増産しなければならない、片方では工場を閉鎖しないといけない』という中で、閉鎖していた工場を再開する頃に異業種協力の話が始まりました。当初はTPSを指導していただき生産方式を新たにするよりは、工場を2週間閉めていた分のリカバリーが先だという感じもあったのも事実です。TPSの指導が受けられるのはありがたいと思っていましたが、リカバリーで一生懸命になっている現場が耐えられるかという心配もありました」と振り返ります。
もともとはゴールデンウイーク明けからの活動開始の予定が、「一刻も早く見た方がその後の改善も早く進む」というトヨタの考えから、4月下旬には感染予防対策に万全を期したうえで先発隊として2人が来社しました。普段、現場に携わっていると見えない部分を含めて確認、プロセスの見える化、改善策の概略をまとめました。GW明けにはデンソー、東海理化も参加。先発隊が確認した改善ポイントを3社と進めていきました。
富岡生産センタで増産する人工呼吸器
現場での具体的なサポート
人工呼吸器の月間の生産台数が50台から300台に増やしていかなければならないという話の中で、部品の手配、治具やツールの準備、人手も整えないといけない状況にありました。そのような中で支援チームからは全体に目配りと、1つ1つのボトルネックへの指導がありました。電子部品等の部品調達の面での支援もありました。
ホンダからは、人工呼吸器の架台を1千台生産いただきましたが、既存の生産環境では実現できないスピード感で供給いただきました。「こういった支援は、コロナ禍で官民が協力して医療現場を支えたいという想いのもとに実現したもの」(真柄社長)で、現場も一丸となり取り組みました。
目に見えない効果も
真柄社長は、「今回は生産改革に近い取り組みでしたが、TPS支援チームでは通常時に戻ったときのことまで考えていただきました。先々のことを考えると設備を入れて大量に作ることはできない。本当はこちらがベストだが、今後を考えるとこのやり方にしようと進めていただいたのです。需要変動に応じて生産ができるかどうかまだまだですが、今回のことで、それなりに作れるようになったのは現場の自信にもなっています。これを次の改革のトリガーにしたいと思います」と語りました。
今後の経営、生産活動への活用「改善の終わりは改善の始まり」
富岡地区は人口減少が進んでおり、将来的に生産人口の減少が予測されます。そのような中、真柄社長は、「この地区には自動車関係企業も多く、外国人技能実習生を使ったりもしているが、当社は自分たちで生産効率を上げようとしています。一方で、グローバルなサプライチェーンを考えるといずれは海外にも出ていかないといけない。そこをコントロールできるようなマザー工場にならないといけないと思っています」と展望します。
また、今後のグローバル展開を見据え、「富岡の生産システムを作り上げて、海外にもっていける形を作っていきたい。今回の取り組みは終了したが『改善の終わりは改善の始まり』だと言われています。今後のグローバル展開を考えても富岡が本当にマザー工場になるための第一歩になったと考えています」と思いを語っていただきました。
日本光電と自動車業界の異業種の取り組みは、コロナ禍で人工吸器を必要とする人々にモノづくりで一丸となって支援する取り組みとなっています。