一般社団法人日本自動車工業会(以下自工会)、一般社団法人日本自動車部品工業会(以下部工会)、一般社団法人日本自動車車体工業会(以下車工会)、一般社団法人日本自動車機械器具工業会(以下自機工)の自動車工業4団体では、「医療現場を始め、新型コロナウイルスの脅威と闘っている方々のお役に少しでも立っていきたい」との想いから、業界一丸となった取組みを進めております。
会員各社における医療現場等への支援内容の具体例につきましては、本ページにて順次ご紹介して参ります。
医療支援の事例紹介
足踏み式消毒スタンドの生産【トヨタ自動車】
「良品廉価」にこだわった「しょうどく大使」
細かい仕様を含めると30種類を試作し、最適な仕様を決めた
使う部品を組み付け場所や順序に合わせて用意し、生産性を向上
マスクやフェイスシールドの生産、医療用防護ガウンの生産支援などを行ってきたトヨタ自動車の足踏み式消毒スタンド「しょうどく大使」生産の取り組みについてご紹介します。新型コロナの感染予防には一にも二にも手洗いが肝心ですが、お客様からの「もっと多くの場所にたくさん置きたい」という声に応え、提供していきます。工場など現場のメンバーが地道に改善を重ね、良品廉価な製品を世に送り出すという点では、自動車と同じ思いが込められています。
-仲間から感染者を出さず、世の中のお役に立つにはどうすればよいのか。
トヨタの各工場ではもともと、コロナの感染拡大が深刻化した4月上旬から、自発的に消毒スタンドを内製し、使ってきました。国内外に補修部品や用品を届ける「サービスパーツ物流部」もそんな部署のひとつです。同部の磯部大祐課長は「我々はものづくりに直接、関わっている部署ではありませんが、仲間から感染者を出さない、また、お客様に幸せに感じてもらったり、世の中の役に立てないかという思いで現場が色々と活動を続けてきました」と振り返ります。そんな思いや活動が上層部に伝わり、市販化にゴーサインが出たのです。
-改善風土と足踏み式へのこだわり
ここからがトヨタ生産方式(TPS)や改善風土が根づくトヨタの真骨頂です。おカネをかければ電動式の立派な消毒スタンドは作れます。しかし、社員たちは足踏み式にこだわりました。「足で踏むことによって適量を手に取ることができます。そして、自分の意思で動くので、スピーディーな反応で消毒液が出てきます。大事なポイントですが、無駄・ムラ・無理のない仕様なのです」と磯部さんは説明します。
市販する仕様を決めるまでに、系列ディーラーやレンタリース店はもちろん、病院や企業、自治体に試作品を置かせてもらい、消毒スタンドのニーズを探ったり、使い勝手の検証を繰り返したりしてきました。細かい仕様変更などを含めると、3カ月の間に試作したスタンドは30種類にも及びます。その結果、足踏みでも手押しでも使用でき、子供や車椅子利用者が使えるよう高さも調整できる現在の仕様が決まりました。汚れやすいパーツは外して洗うこともできます。これも、モニター利用者からの声を踏まえた改善の一例です。
仕様が決まると、次はコストダウンへの挑戦が始まりました。安価でシンプルな仕様ではありますが、原価を徹底的に下げ、生産性を高める工夫を重ねました。
まず、パイプなどの部材はトヨタの生産現場で日常的に使っている汎用品を選びました。量産工程も「切断」「塗装」「組み立て」とシンプルです。樹脂部品の成型には遊休金型を再利用しています。「セット取り」と言って、複数の部品を1回の射出で生産する工夫もしています。組み立てでも20の部品を組み付ける場所や順番に合わせて用意し、作業者がなるべく動かないよう配慮しました。最初は1本を組み立てるのに90分かかりましたが、今では20分で済みます。最終的には5分を目指すそうです。
ものづくり現場のノウハウと想いが込められた「しょうどく大使」。これから、あちこちで目にする機会が増えそうです。
トヨタ自動車 サービスパーツ物流部 課長 磯部大祐(いそべ・だいすけ)氏が語る
トヨタ自動車 磯部 大祐
サービスパーツ部課長
―「しょうどく大使」の特徴を教えて下さい
「メリットは大きく3つあります。ひとつ目は足踏み式ということです。世の中には自動式もありますが、足で踏むことによって適量を手に取ることができます。自分の意思で動くので、スピーディーな反応で消毒液が出てくるわけです。2つ目は高さが調整できることです。子供から大人まで、当然ですが手の位置が違いますから。また、医療機関だと車椅子や松葉杖をお使いの人もいますが、足で踏めない方でも手の甲で押すことで噴射できる。様々な押し方に対応できることが3つ目の特徴です」
―様々なところでモニターとして使ってもらったそうですが
「例えば病院ですと1日に2千人ぐらいの方がお見えになる。入り口に3台置きましたが、消毒に関しては渋滞することなく、素早く自分の意思で踏んで検温に向かって頂けました。また、車椅子の方は足もとがひっかかることのないよう、自然に手を伸ばせば使って頂けるようにしました。それから我々の仲間であるトヨタの販売店、レンタリース店。そういったところでは、大きな荷物を持ってくるお客さん、ご家族連れで来るお客さんもいます。大型商業施設にも置かせて頂き、自分たちの目で見て、また実際に使って頂いた感想を聞きながら改善を重ねてきました」
「事前にモニターで使って頂いた皆さまからは非常に前向きな声を頂いており、医療や介護の現場はもちろんですが、行政や学校、そして一般企業など、幅広いお客様に対して喜んで頂ける製品です。1人でも多くのお客様に受け入れて頂ければと思います」